こんにちは。
設備設計を普段行っている中で設計初心者がよく計画を忘れがちなこと。
それはエアバランスに起因する建築的要素について意匠担当へ伝達することを忘れることだ。
具体的には3種換気の室にパスダクトを設けることやドアガラリの伝達だろう。
またパスダクトやドアガラリの大きさを間違えて伝えてしまうこともある。
即ち結果的に面風速が間違ってしまう。
施工段階で施工者側が気付いてくれればまだ対応は可能だ。
だが誰も気づかなかった場合は運用後に音鳴りや扉が開けづらいなどといった問題が起こる。
今回は室内外圧力差と扉の開閉に必要な力について紹介する。
なおドアガラリやアンダーカットの必要面積の算出方法については以下から参照されたい。
扉の開閉に必要な力の算出方法を順に紹介する。
空気流出入部の面風速を確認
まず空気の流出入が自然と発生する部分の面風速を計算する。
ガラリがある場合はガラリ部分の面風速を確認する。
ベントキャップの場合はベントキャップ部分の面風速を確認する。
(今回は完全密閉を想定しすき間風はないものとする。)
計算式は以下の通りとなる。
計算式 | 面風速[m/s] = 風量[m3/h] ÷ 3,600[s/h] ÷ 開口面積[m2] |
室内外の圧力差
次に室内外の圧力差を計算する。
開口部分の面風速から室内外の圧力差を確認する。
計算式は以下の通りとなる。
計算式 | 室内外の圧力差[Pa] = 1/2 x 空気密度[kg/m3] x 面風速[m/s]の2乗 |
開口が全くない場合の圧力差
開口が全くない場合の圧力差は換気ファンの能力に依存することとなる。
左図にP-Q線図(風量と静圧で構成されるグラフ)を示す。
選定機器の最大静圧Bからダクト等にかかる圧力損失Aを差分した静圧が圧力差となる。
開口の面風速から求めた室内外圧力差がファンの静圧 - ダクト等の圧力損失を超える場合
「開口の面風速から求めた室内外圧力差」が「ファンの最大静圧-ダクト等の圧力損失」を超える場合は「ファンの最大静圧-ダクト等の圧力損失」の値が室内外圧力差となる。
計算式 | 室内外の圧力差[Pa] = 1/2 x 空気密度[kg/m3] x 面風速[m/s]の2乗 > ファンの最大静圧[Pa] – ダクト等の圧力損失[Pa] |
圧力差がない状態での扉にかかる力
圧力差がない状態での扉自体の開閉にかかる力は通常30[N]以下だ。
なお1[N] ≒ 0.1[kg]である。
扉にかかる力
上記が求められたのちに扉にかかる力を算出する。
計算式 | 扉にかかる力[N] = 圧力がない状態で扉に係る力[N] + 1/2 x 室内外圧力差[Pa] x 扉の面積[m2] |
計算例
本項では前項までで使用した計算式に基づき計算例を紹介する。
境界条件
・排気ファンの能力:1,000CMH、100Pa
・壁面や天井、床面といった部分からの空気の漏洩はないものとする。
・その他の境界条件は以下による。
・圧力差がない状態での扉自体の開閉にかかる力は10[N]とする。
Case①
外部に自然給気ガラリを面風速1.5m/sとなるように設けた場合
Case②
外部に自然給気ガラリを面風速3.0m/sとなるように設けた場合
Case③
外部にガラリを設けない場合。
排気ファンのP-Q線図。
共通の計算条件
排気ファンの能力より室内外最大圧力差は以下の通りとなる。
計算式 | 室内外の最大圧力差[Pa] = ファンの最大静圧[Pa] – ダクト等の圧力損失[Pa] |
室内外の最大圧力差[Pa] = 300[Pa] – 100[Pa] | |
室内外の最大圧力差[Pa] = 200[Pa] |
Case①
空気流出入部の面風速
境界条件よりガラリ部分の面風速は1.5m/sである。
つまり空気流出入部の面風速は1.5m/sとなる。
室内外の圧力差
面風速は1.5m/sなので室内外の圧力差は以下の通りとなる。
計算式 | 室内外の圧力差[Pa] = 1/2 x 空気密度[kg/m3] x 面風速[m/s]の2乗 |
室内外の圧力差[Pa] = 1/2 x 1.2[kg/m3] x 1.5[m/s]^2 | |
室内外の圧力差[Pa] = 1.35[Pa] |
扉にかかる力
境界条件より圧力差がない状態での扉自体の開閉にかかる力は10[N]である。
つまり以下の計算により扉にかかる力を算出することが可能だ。
計算式 | 扉にかかる力[N] = 圧力がない状態で扉に係る力[N] + 1/2 x 室内外圧力差[Pa] x 扉の面積[m2] |
扉にかかる力[N] = 10[N] + 1/2 x 1.35[Pa] x (0.9 x 2.1)[m2] | |
扉にかかる力[N] = 11.28[N] ≒ 1.128[kg] |
Case②
空気流出入部の面風速
境界条件よりガラリ部分の面風速は3.0m/sである。
つまり空気流出入部の面風速は3.0m/sとなる。
室内外の圧力差
面風速は3.0m/sなので室内外の圧力差は以下の通りとなる。
計算式 | 室内外の圧力差[Pa] = 1/2 x 空気密度[kg/m3] x 面風速[m/s]の2乗 |
室内外の圧力差[Pa] = 1/2 x 1.2[kg/m3] x 3.0[m/s]^2 | |
室内外の圧力差[Pa] = 5.40[Pa] |
扉にかかる力
境界条件より圧力差がない状態での扉自体の開閉にかかる力は10[N]である。
つまり以下の計算により扉にかかる力を算出することが可能だ。
計算式 | 扉にかかる力[N] = 圧力がない状態で扉に係る力[N] + 1/2 x 室内外圧力差[Pa] x 扉の面積[m2] |
扉にかかる力[N] = 10[N] + 1/2 x 5.40[Pa] x (0.9 x 2.1)[m2] | |
扉にかかる力[N] = 15.10[N] ≒ 1.510[kg] |
Case③
空気流出入部の面風速
Case③は室内外で空気はやり取りされない。
室内外の圧力差
空気のやり取りがないため排気ファンの能力から求められる圧力差が室内外の圧力差となる。
計算式 | 室内外の最大圧力差[Pa] = ファンの最大静圧[Pa] – ダクト等の圧力損失[Pa] |
室内外の最大圧力差[Pa] = 300[Pa] – 100[Pa] | |
室内外の最大圧力差[Pa] = 200[Pa] |
扉にかかる力
境界条件より圧力差がない状態での扉自体の開閉にかかる力は10[N]である。
つまり以下の計算により扉にかかる力を算出することが可能だ。
計算式 | 扉にかかる力[N] = 圧力がない状態で扉に係る力[N] + 1/2 x 室内外圧力差[Pa] x 扉の面積[m2] |
扉にかかる力[N] = 10[N] + 1/2 x 200[Pa] x (0.9 x 2.1)[m2] | |
扉にかかる力[N] = 199.00[N] = 19.900[kg] |
前項までで紹介した3つのパターンによればそれぞれの扉に必要な力はCase①からそれぞれ1.128kg,1.510kg,19.900kgとなった。
クリーンルームでもない限り実際にはすきま風や扉部分にも多少は開口があることがほとんどだ。
だが室内外で空気のやり取りを行う部分があるだけで扉の開閉に必要な力が大きく変わる。
まとめ
今回はパスダクトやドアガラリの設け忘れに伴う扉の開閉に必要な力について紹介した。
パスダクトやドアガラリの設け忘れがあるだけで扉があかなく恐れがあることを紹介した。
建築含め普段何となく調整している項目だが想像以上に大切な役割があることを理解いただければと思う。
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