脱炭素化ロードマップの計画方法

こんにちは。

近年では建物の脱炭素化が急務となっており、各事業者も関心が高いテーマの一つである。
こういった背景もあり、ステークホルダーからも脱炭素化が要求されることも少なくない。
しかし、いざ脱炭素化に前向きになったとしても、何から手を付けたらよいかわからないことも多い。

今回は脱炭素化ロードマップの計画方法について紹介する。

脱炭素化ロードマップ計画までの流れ

脱炭素化ロードマップ計画までの流れをしては、下表に示すとおり大きく5つのステップに分類される。
まずは脱炭素化にあたっての目標を設定する。
次に、基準年のCO2排出量の算定を行い、CO2排出量の主要因について分析する。
さらにCO2排出量の要因や建物の使われ方を鑑みて脱炭素技術の効果と費用を試算する。
これらの手順を踏んだのちにロードマップの計画を行う。

脱炭素化ロードマップ計画までの流れ
STEP1 目標の確認
STEP2 CO2排出量の算定
STEP3 CO2排出量の分析
STEP4 脱炭素技術の費用対効果試算
STEP5 ロードマップの計画

STEP1 目標の確認

脱炭素化に取り組む目的は、事業者によって大きく異なるものである。
したがって、それぞれの事業者に応じた目標を設定することが不可欠である。

たとえば、国の指針に沿って取り組む場合には、2030年度までに2013年度比でCO2排出量を46%削減し、2050年度にはカーボンニュートラルを達成することが目標となる。
これらは社会全体で共有すべき基準であり、各企業もこれを踏まえた計画を策定することが求められている。

一方で、企業ごとに独自の施策やロードマップを掲げる事例も存在する。
たとえば、環境ブランドの確立や投資家への説明責任を重視する企業においては、国の目標を上回る水準を自社の削減目標として設定する場合がある。
また、エネルギー効率の改善や再生可能エネルギーの積極的な導入を中心に据えるなど、取り組みの重点分野を明確に定めることも多い。

さらに、脱炭素化は環境配慮の観点にとどまらず、光熱費の削減や事業運営コストの低減といった経済的メリットを追求する手段ともなり得る。
すなわち、脱炭素化は地球環境保全のための施策であると同時に、企業の競争力向上や経営リスクの回避にも資する戦略的取り組みであると言える。

国の指針
2030年度 2013年度比でCO2排出量を46%削減
2050年度 カーボンニュートラルの達成

STEP2 CO2排出量の算定

目的が定まった後は、その目的に応じたCO2排出量の算定を行うことが必要である。
算定範囲をどのように設定するかによって、取り組みの方向性や対策の優先順位が大きく変わるためである。

たとえば、建物内で使用する電気(Scope2)やガス燃焼(Scope1)に起因するCO2排出量のみを対象とする場合、算定は比較的明確であり、エネルギー管理や設備更新による削減効果を直接把握することができる。

一方で、従業員の通勤や製品の輸送、さらには原材料の調達といったScope3を対象に含める場合には、より広範かつ複雑な算定が必要となる。
Scope3は事業活動のライフサイクル全体に関わるため、取引先や物流事業者との連携も不可欠であり、サプライチェーン全体での脱炭素化を推進する観点が求められる。

このように、算定対象の範囲設定は単なる技術的手続きではなく、事業者が掲げる脱炭素化の目的や姿勢が具体的に反映される。

Scopeの分類
Scope1 燃焼に起因するCO2排出量(ガスや重油、灯油等)
Scope2 他社から購入した電気や蒸気等に起因するCO2排出量
Scope3 Scope1,2以外で発生するCO2排出量

算定イメージ

STEP3 CO2排出量の分析

CO2排出量の算定を行った後には、算定結果に基づく分析を実施することが重要である。
分析の主眼は、全体のエネルギー構成を把握し、特に消費エネルギーが大きい項目について削減の余地があるかどうかを確認する点にある。

消費エネルギーの小さい項目に対して脱炭素化を進めたとしても、排出量の母数そのものが小さいため、全体に及ぼす削減効果は限定的である。
そのため、優先順位を誤らず、排出量の大きな項目に注力することが効率的かつ効果的な脱炭素化戦略につながるのである。

また、この分析段階では単に数値を確認するだけでなく、エネルギー使用の背景や運用状況を踏まえ、改善可能な余地を検討することが求められる。
たとえば、老朽化した設備の更新や運用方法の改善による削減可能性、再生可能エネルギーの導入余地などを具体的に洗い出すことが有効である。

すなわち、CO2排出量の分析は「どこに力を注ぐべきか」を明らかにし、次の削減施策立案につなげるための橋渡しとなるプロセスである。

STEP4 脱炭素技術の費用対効果試算

CO2排出量の分析により脱炭素化の大まかな方針が定まった段階では、次に各脱炭素技術の費用対効果を試算することが必要である。
費用対効果を算出する目的は、限られた資源の中で最小限の費用により最大の効果を得て、効率的に目標を達成することである。

建物の構造や用途、稼働時間、利用者数などの条件によって、同じ技術であっても費用対効果は大きく異なる。
したがって、画一的な基準に基づくのではなく、事業者ごとに個別の条件を反映させた試算を行うことが不可欠である。

また、この費用対効果の検討は、次のステップであるロードマップの策定に直接的な影響を及ぼす重要な要素である。
そのため、ある程度の根拠を持った定量的な試算を行い、投資判断や実行計画の裏付けとする必要がある。

さらに、脱炭素技術の費用対効果試算やロードマップの計画立案にあたっては、専門的な知見を有する外部企業へ依頼するケースも多い。
特に、設計事務所や施工会社など実際に建物の計画・改修に携わる企業が参画することで、より現実的かつ精度の高い検討が可能となる。
こうした連携は、脱炭素化を単なる理念ではなく、実効性のある取り組みへと昇華させるために欠かせないプロセスである。

なお、CO2排出量換算はしていないが、一般的な事務所用とにおける脱炭素技術毎の省エネ効果について以下の記事で紹介している。
前述のとおり、事業者により事務所の使われ方も異なるため、都度検討が必要ではあるが、参照いただければと思う。

STEP5 ロードマップの計画

導入する脱炭素技術が決定した後は、ロードマップを作成する段階に移行する。

 下図にロードマップの策定例を示す。
ロードマップには、年度ごとに導入する脱炭素技術と、それに伴うCO2排出量の推移を明示することが望ましい。
これにより、削減の見通しや最終的な到達点を直感的に把握でき、関係者間での目標共有が容易となる。

さらに、ロードマップは一度策定して終わりではなく、毎年の実績値を反映させて更新することが重要である。
これにより、当初の計画と実績との差異を把握でき、進捗率を定量的に管理することが可能となる。
加えて、状況の変化や新たな技術の登場に応じて柔軟に修正を加えることで、現実的かつ実効性の高い計画へと発展させることができる。

すなわち、ロードマップは単なる工程表ではなく、脱炭素化を着実に推進するための戦略的な管理ツールであると言える。

まとめ

今回は脱炭素化ロードマップの計画方法について紹介した。
脱炭素アドバイザーをはじめとした脱炭素に精通した企業と連携することで、より具体的かつ精度の高い脱炭素化ロードマップを作成することが可能となるだろう。

コメント

  1. MIM より:

    この脱炭素化ロードマップの記事、面白い!費用対効果試算とか、ロードマップ作成の細かいことまで教えてくれるのすごい。でも、結局「専門家に任せろ」って結論に…。まあ、建築設備の奥深さは分かるけど、自分で計算していくプロセスの難しさが伝わってきた!「机械设備一般」のセクションが意外と役立つかも…?まあ、いっか、GX検定アドバンスト受けてみるしかないか!MIM