こんにちは。
空調設計に従事し始めた間もないころは、空調に関する専門用語がわからないことが多い。
特に空調設計も最も基本的な用語であり、最も重要な用語である中央熱源や個別熱源。
中央熱源と個別熱源の違いがよくわからないといった方も多いだろう。
中堅の設計者でも中央熱源と個別熱源のどちらの方式を採用しようか悩むことが多い。
だが初めて空調設計を行う方は中央熱源と個別熱源のそれぞれの違いが分からず頭を悩ませる方もいる。
今回は中央熱源と個別熱源の違いについて紹介する。
上図に熱源方式の種類を紹介する。
熱源方式は大きく「中央熱源方式」と「個別熱源方式」に大別できる。
中央熱源方式は「1次側機器」や「1次側補機」、「2次側機器等」に分類されそれぞれを組み合わせることで空調設備を構成する。
一方で個別熱源方式は業務用であれば「パッケージエアコン」や「ビルマルチエアコン」、家庭用であれば「ルームエアコン」により空調を行う。
一般的なそれぞれの熱源方式の違いは以下の通りだ。
熱源方式 | 説明 |
---|---|
中央熱源 | 一つの空調システムで建物全体の空調を行う方式 |
個別熱源 | 複数の熱源を設置し建物全体の空調を行う方式 |
中央熱源
中央熱源の構成
上図に中央熱源の場合における基本的な構成図を紹介する。
中央熱源の場合は様々な機器を使用して熱源システムを構成する。
熱源機で冷たい水(冷水)や温かい水(温水)を発生させる。
熱源機で作られた冷水や温水を空調2次ポンプが各空調機器(空調機やファンコイルユニット(FCU)へ供給する。
空調機器では熱源側から供給された冷水や温水と室内側の空気を熱交換させる。
結果冷却、加熱された空気を室内へ供給し冷房、暖房を行う。
大きな特徴としては熱源機や空調ポンプなどは建物の一か所に集約することが可能だ。
そして空調対象箇所へ適宜空調機器(空調機やファンコイルユニット)を設置することで空調を行うことが大きな特徴だ。
熱源機(1次側機器)
空調を行うための冷水や温水を発生させる機器を熱源機と呼ぶ。
熱源機は大きく以下の種類に大別することが可能だ。
熱源機の種類 | 説明 | |
---|---|---|
空冷式 | 一般形 | 空気を熱源とする熱源機 |
モジュール形 | 空気を熱源としモジュール単位で台数制御を行う熱源機 | |
水冷式 | 吸収式冷温水発生機 | ガスや油を熱源とする熱源機 |
真空式温水発生機 | ガスや油を熱源とし暖房に特化した熱源機 | |
ターボ冷凍機 | 冷房に特化した熱源機 |
以下に一例を紹介する。
空冷式モジュールチラー
複数台(モジュール)を組み合わせて一つの熱源機として運転する熱源機だ。
室内側の負荷に応じてモジュール単位で運転する熱源台数を選択することが可能だ。
電気で駆動することが特徴だ。
吸収式冷温水発生機
出典:https://www.ers.ebara.com/product/absorption-h/
都市ガスや油を用いて冷水と温水を発生させる装置だ。
災害時やインフラ途絶時を考慮し、電気と都市ガス等の熱源を多重化する際にもよく用いられる。
また官庁施設では採用事例が多い。
理由としては経年劣化による機器の更新が基本的に不要であることだ。
(部品の交換のみで長期間にわたり運転が可能だ)
ターボ冷凍機
出典:https://www.jp.trane.com/ja/wp/hvac/whatsturbo.html
冷媒を用いて冷水を発生させる熱源機だ。
ターボ冷凍機は冷房用の冷水のみを発生させることができる。
電気で駆動することが特徴だ。
熱源補機(1次側補機)
熱源機が水冷式の場合は熱源補機を別途設置する必要がある。
熱源補機とは実際には冷却塔(クーリングタワー)を示す。
出典:https://www.kuken-coolingtower.com/knowledge/construction/
冷却塔は熱源へ冷却水を供給するための装置だ。
冷却水は大気と直接もしくは間接的に熱交換し発生させる。
また冷却塔は大きく分けて「開放式」と「密閉式」がある。
一般的に開放式が使用されることが多い。
冷却塔の種類 | 説明 |
---|---|
開放式 | 外気と空調用循環水を直接熱交換する方法。 空調用循環水は大気へ開放されるため水質悪化の恐れがある。 |
密閉式 | 外気と空調用循環水を間接的に熱交換する方法。 空調用循環水として水以外に寒冷地で用いられるブライン(不凍液)を使用することも可能。 |
空調2次ポンプ(二次側補機)
出典:https://www.hakko-techno.co.jp/case/installation/pump/case03.html
空調2次ポンプは熱源機で作られた冷水や温水を空調機器(空調機やFCU)まで供給するために使用される。
室内側の冷房需要、暖房需要に応じて空調2次ポンプを制御することも多い。
空調機器(空調機とファンコイルユニット)
空調機やファンコイルユニットについては以下の記事で紹介している。
(本稿ではあくまでも熱源方式の紹介のため説明を割愛する)
個別熱源
上図に個別熱源の場合における基本的な構成図を紹介する。
個別熱源は主に室外機と室内機で構成される。
室外機と室内機は冷媒で接続される。
冷媒とは主に簡単に言えばガスのことだ。
室外機で冷媒を冷却もしくは加熱する。
その冷却、加熱された冷媒を室内機へ供給する。
室内機で室内の空気と冷媒を熱交換させ室内の冷房、暖房を行う。
大きな特徴としては空調エリアごとに室外機と室内機のセットが必要なことだ。
建物規模が大きいほど室外機及び室内機の設置台数も増える。
また中央熱源とは異なり室外機と室内機の冷媒管長さにも制約がある。
さらに冷媒管が長くなるほど空調の効率が低下する。
そのため建物規模が大きいほど室外機の設置位置に大きな制約が発生することが多い。
そして個別熱源の場合は建物内の換気を一切行わない。
つまり換気用の機器を別途設置する必要があることが大きな特徴だ。
個別熱源の種類 | 説明 | |
---|---|---|
家庭用 | ルームエアコン | 家庭用のエアコン。 業務用と比べ耐用年数が短い。 |
業務用 (店舗用) | パッケージエアコン | 家庭用に比べ大規模な空間の空調を行うことが可能。 また室内機も様々な形式がある。 |
ビルマルチエアコン | 室外機1台に対し複数台の室内機を設置することが可能。 比較的大規模な建物でも使用されることが多い。 |
業務用のパッケージエアコン、ビルマルチエアコンには電気で稼働する「電気式」と、ガスで稼働する「ガス式」がある。
電気式とガス式のコスト比較は以下の記事で紹介しているのでご確認頂きたい。
ルームエアコン
ビルマルチエアコン
出典:https://www.ac.daikin.co.jp/vrv/about
ビルマルチエアコンは室外機1台に対し室内機を複数台接続可能な機器だ。
室外機側の能力にもよるが室外機1台あたり室内機最大60台程度まで接続が可能だ。
中央熱源と個別熱源の効率(省エネ性)
各方式による効率(省エネ性)に関する文献
厚生労働科学研究所「建築物環境衛生管理における空気調和設備等の適切な運用管理手法の研究空調設備の地域性と省エネルギーの影響に関する分析」によれば、中央熱源よりも個別熱源の方が効率が良い。
つまり、建物全体における中央熱源と個別熱源の効率だけを踏まえると、一般に個別熱源の方が効率が良い。
一昔前までは個別熱源(パッケージエアコン)の空調効率があまり良くなかった。
そういった事情もあり、延べ面積2,000~3,000m2程度でも中央熱源が採用されることが多かった。
しかし、最近では個別熱源(パッケージエアコン)の効率が大きく向上した。
そのため、延べ面積10,000m2や20,000m2といった建物規模でも個別熱源が使用されることが多い。
そのため一般的な事務所ビルでは個別熱源が採用されることがほとんどだ。
中央熱源と個別熱源のどちらを選択するか
中央熱源が要求されるかどうかは、建物の耐震性の観点や、特殊な室用途がある場合が多い。
耐震性の観点からは多重熱源化を行う場合や、停電時や災害時にも供給される中圧ガスを利用する場合は中央熱源が必須となる。
また、高温恒湿やクリーンルーム等繊細な空気を要求される室用途が建物内にある場合においても中央熱源が必須だ。
室内環境・室用途等 | 建物種別(例) |
---|---|
恒温恒湿が要求される室 | 病院・研究所等 |
建物の耐震性能:甲類 | 重要施設 |
BCP対策が求められる建物 | 重要施設 |
パッケージエアコンの効率と省エネ性能については以下の記事で紹介しているので参考にされたい。
まとめ
今回は中央熱源と個別熱源の違いについて紹介した。
中央熱源と個別熱源のどちらの方式を採用するかは各熱源方式の特徴を踏まえる必要がある。
空調方式によって特にコストも大きく変わる。
熱源方式毎のコストを以下の記事で紹介しているため是非参考にされたい。
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