雨水利用設備の概要と種類 -各雨水処理フローも併せて紹介 2023.11.052024.01.07 こんにちは。官庁案件では比較的導入することが多い雨水利用設備。また福岡をはじめとした一部の地域においては雨水利用設備や中水利用設備の導入が必須であることも多い。比較的導入頻度が高い雨水利用設備だが、初めて設計を経験する方からすれば計画の方法が全く分からないことも少なくない。今回は雨水利用設備の概要と種類について紹介する。 コンテンツ 雨水利用設備の参考書籍雨水利用設備とは雨水の利用先上水と雨水の利用割合雨水の処理方式スクリーン沈砂槽沈殿槽雨水貯留槽ろ過装置消毒装置雑用水槽水槽の配置雨水流入可否の制御まとめ 雨水利用設備の参考書籍 雨水利用設備を計画する際に必需品と言っていいほど参考になる書籍は国交省より発刊されている「雨水利用・排水再利用設備計画基準・同解説」だ。 主に雨水利用設備や排水再利用設備(中水利用設備)の計画方法について紹介されている。そのため興味がある方は参照されたい。本稿も原則上記書籍に基づき紹介する。 雨水利用設備とは 通常建物の水源は水道局から供給される給水管を分岐し、建物内に引き込み使用する。(一部地域では井戸水を使用することもある。)つまり上水を手洗いやトイレの洗浄水等へ使用している。 雨水利用設備とは上水の代わりに雨水を用いて節水を行う設備のことをいう。雨水を用いることで上水の使用水量を低減させることが可能だ。結果上水の節水にもつながる。 雨水の利用先 雨水は上水とは異なり完全に滅菌されているわけではない。そのため雨水の使用先は上水とは異なり限定されることがほとんどだ。細かくは各地方自治体の保健所の基準によるが代表的な雨水の利用先を紹介する。 例えば手洗い器やウォシュレット、オストメイトなど水が人に直接触れる可能性がある場合は上水のみ使用できることが多い。一方で小便器や大便器の洗浄水、潅水は雨水の利用が可能であることが多い。 上水と雨水の利用割合 建築設備設計基準では用途別に雨水利用を行う場合の日使用水量の割合を定めているので以下の表で紹介する。庁舎では雑用水(雨水)の使用割合が全体の60-70%で住宅であれば20-35%程度となる。 上水と雑用水の使用割合 用途 上水 雑用水 庁舎 30~40% 60~70% 住宅 65~80% 20~35% 病院 60~66% 34~40% 学校 40~50% 50~60% (参考)細かな計算方法は以下の記事で紹介しているため確認頂ければと思う。 【建築設備】1日の使用水量(上水・雑用水)の算定方法こんにちは。建物の設計を行う際に必ず必要な情報。その一つが1日の使用水量だ。使用水量を整理しないと給水管の引込口径や受水槽の方式の場合は受水槽容量の算定ができない。基本的な設備計画の基礎的な内容であるため必ず押さえておきたいポイントだ。今回... 雨水の処理方式 雨水利用・排水再利用設備計画基準・同解説では雨水の処理フローについて大きく3種類紹介している。それぞれの処理フローは屋根面がどの程度きれいであるかによって判断される。 標準処理フローの比較 処理フロー No 集水場所 建設費 造水コスト 設置面積 維持管理 雨水貯留槽除く 雨水貯留槽含む 1 きれいな屋根面 80 100 15 80 ◎ 2 比較的きれいな屋根面 100 100 100 100 ◎ 3 汚れの多い屋根面 140 105 120 105 ○ スクリーン スクリーンとは比較的大きなごみを堆積させるためのかごのことだ。ステンレス鋼板(SUS304)で作られることが多い。またスクリーン本体の目幅は2~5mm程度であることが多い。 沈砂槽 沈砂槽とは主にスクリーンで除去しきれなかった比較的細かなゴミを堆積させるための水槽だ。(参考)沈砂槽の容量について以下の記事で紹介している。沈砂槽についてより深く知りたい方確認頂きたい。 沈砂槽の計算方法 -役割や計算方法を紹介-こんにちは。最近では雨水利用設備を建物に導入する事例が多い。理由は節水やSDGs、CASBEE等様々だ。雨水利用設備の導入にあたって沈砂槽や沈殿槽、雨水貯留槽等を設置する必要がある。その中でも各水槽の容量の算定方法がわからない方も多い。今回... 沈殿槽 沈殿槽では比較的軽いゴミを2~3時間程度かけてゆっくりと沈殿させるために設けられる。つまり沈殿槽は比較的水槽自体が大きくなることが多い。 雨水貯留槽 スクリーンや沈砂槽、沈殿槽によりゴミが取り除かれた雨水が雨水貯留槽に滞留する。雨水貯留槽は消毒前の水が滞留する水槽となる。 ろ過装置 ろ過装置は雨水を雑用水として利用するためにろ過を行う装置だ。主に砂ろ過装置が使用されることが多い。 消毒装置 消毒装置は薬注装置と呼ばれることが多い。薬注装置で塩素を注入することにより雨水を消毒する。 雑用水槽 雑用水槽は雨水を便所洗浄水等として二次利用するためにためるための水槽だ。雑用水槽内の塩素濃度を監視し消毒装置により塩素濃度を確保することが多い。(雑用水配管内に直接薬液投入する場合もある。) 水槽の配置 雨水利用設備の各水槽は以下のような配置となる。特に沈砂槽から雨水貯留槽まではオーバーフローにより水槽内の水が移送される。そのため水槽の高さ関係には注意が必要だ。 雨水流入可否の制御 雨水流入可否の制御を行う弁としてナイフゲート弁もしくはセグメントボールバルブが用いられることが多い。 出典:https://www.superoseiki.co.jp/bulb/knife.html ナイフゲート弁はギロチンのような形をしたバルブだ。多少ゴミが詰まったとしても問題なく作動する。一方でかなり大型な弁であるため納まりを考慮する必要がある。 出典:https://premium.ipros.jp/proterial/product/detail/2000474640/ セグメントボールバルブはナイフゲート弁と比べると比較的コンパクトな設計だ。そのため比較的汎用性が高いことと最近ではセグメントボールバルブの方が使用される頻度が多い印象だ。 主な制御内容としては主に以下の通りだ。・降雨計を屋外へ設け、降雨時に雨水取入れ弁を開とする。・また水槽内が満水だと判断されたときは雨水取入れ弁を閉とする。 まとめ 今回は雨水利用設備の種類と概要について紹介した。一概に雨水利用設備といっても多くの種類がある。そのため立地条件や各方式毎の導入コスト、ランニングコストより総合的に判断することが重要だ。
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