屋内消火栓の揚程算出方法

こんにちは。
機械設備および電気設備等の設計業務には必ず設計計算書がつきものだ。
計算書からは各機器の能力に問題がないかであったりシステムに問題がないかなどを読み解くことができる。
設計図間での不整合についてよく計算書を振り返って修正をした経験があることもあるかと思う。
そんな中でも必ず消火設備関係の計算書は建築確認申請段階で消防から提出が求められることが多い。
消火設備の必要水量能力自体は基本的に決まった数値を用いるだけなのであまり難しくはない。
一方で揚程については建物ごとにそれぞれ計算が必要でありこれが意外と面倒だ。
今回はそんな消火設備の中でも特に頻度が多い屋内消火栓の揚程計算について紹介する。

屋内消火栓概要

まず最初に屋内消火栓の概要を記す。
各必要箇所に屋内消火栓が設置されるわけだが各々の屋内消火栓は1つの配管でつながっていることが普通だ。
またその配管の根元には消火ポンプがありさらに消火水槽まで導かれる。
消火水槽についても屋内消火栓の数量に応じて必要なだけの水槽容量が設置されている。

更に最頂部には消火配管内を常に水で満たすために充水槽が設置されている。
(寒冷地の場合は乾式とする場合など一部例外がある)

消火ポンプの必要揚程構成要素

消火ポンプの揚程を算出するにあたり各揚程の構成要素は以下の通り

①消火配管の圧損
②実揚程
③ノズルの圧損
④ホースの圧損

上記①~④の合計値が消火ポンプに必要な揚程となる。

①消火配管の圧損

消火配管の圧損は以下の式で表される。
消火配管の圧損[m] = (αn x (l’n +l”n)) / 100

但し
αn[ – ] = 圧損摩擦水頭
l’n[m] = 配管直管部の長さの合計
l”n[m] = 継手バルブ類の直管相当長さの合計となる。

なおαnの値については流量と管径の関係から表を読み取っても問題ないが以下の通り。
  70L/min , 25A ⇒ αn[ – ] = 16.0
  90L/min , 40A ⇒ αn[ – ] =   3.5
140L/min , 40A ⇒ αn[ – ] = 17.0
150L/min , 40A ⇒ αn[ – ] = 18.0
180L/min , 50A ⇒ αn[ – ] =   3.5
300L/min , 65A ⇒ αn[ – ] =   2.8

またl’nについては平面図上で実際の長さを拾えばよい。

続いてl”nについては以下の通りだ。

上記の表に基づき後は数量を計上すればよい。

②実揚程

次が実揚程についてだ。
実揚程は大きく吐出揚程と吸込み揚程に分かれる。
この吐出と吸込みはポンプの吐出側と吸込み側といった意味だ。
従ってポンプよりも吐出側は屋内消火栓がある側、吸込み側はポンプよりも消火水槽側を示している。
こちらの実揚程の算出は実に簡単だ。
吐出側についてはポンプ設置高さから最も高いところに設置されている屋内消火栓の高さを計測した高さだ。
吸込み側はポンプ設置高さから水槽床面までの高さを示す。
上記の吐出側と吸込み側を加算した数値が実揚程となる。

③ノズルの圧損

続いてがノズルの圧損についてだ。
こちらも非常にシンプルで屋内消火栓の種類により数値が決まっている。
1号消火栓 = 17m
易操作1号消火栓 = 17m
広範囲2号消火栓 = 17m
2号消火栓 = 25m
である。

④ホースの圧損

最後にホースの圧損について紹介する。
ホースの圧損お数値が決められており以下の通り。

1号消火栓 = 3.6m
易操作1号消火栓 = 18~25m(中央値21.5m)
広範囲2号消火栓 = 13~19m(中央値16.0m)
2号消火栓 = 8~15m(中央値11.5m)

特に理由がない限りは中央値を用いて問題ない。

練習問題

一通り説明したところがまだ理解できていない方も多いかと思うので例題を用いて紹介する。

こちらの図は広範囲2号消火栓による消火系統図だ。
図中に計算に必要な寸法などを記載した。
また簡略化するため最遠以外の屋内消火栓枝分かれ後は原則記していない。

①消火配管の圧損
本システムは広範囲2号であることからポンプの水量は180L/minとなる。
また末端部(最遠の屋内消火栓廻り)は1の屋内消火栓しかないので90L/minとなる。
上記条件よりそれぞれαnは以下の通り
90L/min , 40A ⇒ αn[ – ] =   3.5
180L/min , 50A ⇒ αn[ – ] =   3.5
同じ数値のため配管径により拾い分けは行わないこととする。
続いてl’nは水槽下端から順に 3m(高さ) + 1m + 13m(高さ) +10m + 3m = 30m
バルブ類の数量と各抵抗は以下の通り。(SGP白とする)
50A GV x 2個 x 0.3m/個 = 0.6m
50A CV x 1個 x 4.4m/個 = 4.4m
50A フート弁 x 1個 x 4.4m/個 = 4.4m
バルブ類での合計は 0.6 + 4.4 + 4.4 = 9.4m
ベンド類を計上する。
40A チーズ 1個 x 2.5m/個 = 2.5m
50A エルボ 3個 x 1.6m/個 = 4.8m
50A チーズ 5個 x 3.2m/個 = 16.0m
ベンド類での合計は 2.5m + 4.8m + 16.0m = 23.3m
上記条件より①消火配管の圧損は
①消火配管の圧損[m]
 = (3.5 x ( 30 + 9.4 + 23.3))/100 = 2.2m

②実揚程
吐出側:13m + 吸込側:3m = 16m

③ノズルの圧損
今回は広範囲2号消火栓なので17m

④ホースの圧損
今回は広範囲2号消火栓なので16m

これらの①~④を加算した値が今回の消火ポンプに求められる必要な揚程となる。
必要揚程 = 2.2 +16 + 17 + 16 =51.2m

まとめ

今回は屋内消火栓の必要揚程について紹介した。
内容を理解するまでは意外ととっつきにくい部分ではあるが一度覚えてしまえば計算の方法自体は比較的シンプルであるため是非一度自身で計算されてみることをお勧めする。

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