空調のレジリエンス化 -多重熱源のメリットを紹介-

こんにちは。

重要施設の計画を行う場合、空調に冗長性をもたせると言った観点から熱源設備の多重熱源化を図ることがある。
ただ、設計初心者からすれば、一体何がどうなっているのかがよくわからないかと思う。
多重熱源とすることで、万が一一種類の熱源設備が緊急停止した場合においても、もう一種類の熱源設備を運転することで、継続した空調を行うことが可能となる。

今回は多重熱源のメリット・デメリットを紹介する。

熱源設備とは

空気調和衛生用語辞典によれば、「空調設備などの熱負荷設備において、冷熱源または温熱源となる装置」と記載されている。
簡単にいえば、建物の冷却加熱用に必要な冷水・温水(蒸気も含む)を作り出すための機械である。

冷水・温水(蒸気)を生成する方法

空冷ヒートポンプチラーの場合は、下図のような構成となる。
熱源機本体に、熱交換器(凝縮器、蒸発器)を抱えている。
冷水・温水を生成するために用いられる原理として、冷媒に限らないが物質を圧縮することで温度が上昇し、減圧することで温度が低下する原理を使用している。
冷媒を圧縮し、熱くなった冷媒と外気と熱交換することで冷媒を冷やす。
冷えた冷媒を減圧することで冷媒をさらに冷やす。
冷たい冷媒と冷水を熱交換することで冷水が冷える。
暖房の場合は上記とは全く逆のプロセスにより温水が生成される。

一般的な熱源・空調設備の構成

一般的な熱源・空調設備の構成図を左図に示す。
熱源機により、冷房時は冷水、暖房時は温水が生成される。
これらの冷温水を空調機やFCU(ファンコイルユニット)に供給することで、室内の空気(還気:RA)や外気(OA)を適正な温度にし、室内へ空調空気を供給する。

熱源を分散化した場合の熱源・空調設備の構成

熱源を分散化した場合の熱源・空調設備の構成を以下に示す。
熱源を分散化することで、もし一台の熱源機が停止しても、もう一台の熱源機で空調運転を継続することができる。
但し、単に分散化するだけでは、一般的に熱源の多重化とは呼ばれない。
熱源機にはインフラ(電気・ガス・油)の供給が必須である。
全ての熱源機が例えば電気駆動の場合、電気が途絶えるとすべての熱源機の運転が停止する。
つまり、空調のレジリエンス化が図れていないこととなる。

多重熱源化した場合の熱源・空調設備の構成

多重熱源とは、熱源機を異なる種類の熱源で構成することを示す。
下図の例であれば、一方は油熱源による熱源機であり、もう一方はガス熱源による熱源機を設置している。
熱媒体が異なることことで、一方のインフラ(電気・ガス・油等)の供給が途絶えたときにおいても、もう一方の熱源機により空調運転を継続することができることが特徴である。
(厳密には全く電気を使用しない機械は存在しないため、発電機より熱源機へ電源供給されないと熱源機は動かない。)

(余談)データセンター等の空調の冗長化

余談だが、データセンターなどの超重要施設では、下図のように熱源・空調設備が2セット用意されることもある。
理由としては、熱源設備のレジリエンス化のみならず、配管の破断にも備えてるためである。

各熱源方式の比較(メリット・デメリット)

下表に各熱源方式の比較を示す。
表中右側に行くほど、高級な設備となる。
しかし、表中右側に行くほど、機器の故障時やインフラ破断時などの様々な災害に対しても空調運転を継続可能な仕様となる。
つまり、熱源の多重化を図るメリットとしては災害に強いことが挙げられる。
一方で熱源の多重化を図るということは、複数のインフラが必要になる点や、複数の種類の機器が必要になる点などから、コストが増大することがデメリットとなる。

項目熱源方式の種類と空調運転継続の可否
1台設置分散化多重熱源化熱源・空調設備2セット
機器故障時×
インフラ破断時××
配管破断時×××

1台設置:熱源機を一台のみ設置した場合
分散化:同一のインフラにより運転可能な熱源機を複数台設置した場合
多重熱源化:異なる2種類以上のインフラにより運転が可能な熱源機をそれぞれ設置した場合。

多重熱源化のメリット・デメリット
メリット災害に強い
デメリットコストの増加

まとめ

今回は多重熱源のメリット・デメリットを紹介した。 多重熱源化を図ることで、災害時に強い熱源・空調設備とすることが可能である一方で建設費の増大にもつながる。 そのため、熱源空調設備に対してどの程度のレジリエンス化を図るかを確認して設備計画を行う必要がある。

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