こんにちは。
空調関係の設計を行っていると空調機を計画することが多々あるだろう。
比較的大きな規模の建物や特殊な用途の建物の場合等、空調機を使用する場合が多い。
そのため建築建設業界に携わっている方は特に身近に感じることも多いだろう。
そんな空調機(AHU)の吹き出し温度について正しく理解できていない方も多いことが実情だ。
机上計算で狙った吹出し温度でないと適切な温湿度にならない。
またあまりにも吹出し温度が適正でないとじめじめした空間となることすらあり得る。
今回は空調機(AHU)の吹出し温度の考え方について紹介する。
空調機の吹出し温度の紹介をする前に今回使用するツールを紹介する。
今回使用するツールは空気線図だ。
空調機の吹き出し温度を決定する際には必ずと言っていいほど空気線図を用いる。
空気線図では空気の状態がわかるだけではなくどのように空気を扱えばよいかが可視化される。
空調機の吹き出し温度(冷房時)
まずは冷房時における空調機の吹き出し温度を紹介する。
冷房時の空調機吹出し温度は主に以下の3つのプロセスで決定される。
①室内温湿度の設定
項目 | 室内温度[℃] | 室内湿度[%] |
通常 | 26℃ | 50% |
クールビズ | 28℃ | 45% |
まずは目標とする室内温湿度を設定する。
例えば建築設備設計基準では左表の設定温度が記載されている。
その他工場や研究所、病院では室毎に特殊な温湿度を設定する場合がある。
特殊な温湿度が求められる要因としては、主に精密機器等のために空調であるためだ。
必ずヒアリング等により求められる室内温湿度を確認することをお勧めする。
②SHFの設定
次にSHFの設定を行う必要がある。
SHFとはSensible Heat Factorの略だ。
つまり顕熱比を意味する。
顕熱比とは全熱に対する顕熱の比率を示す。
潜熱が発生する要素としては主に人だけだ。
人から発生する呼気や汗が潜熱を発生させる。
つまり無人の室であれば顕熱比は100%となる。
他にも例えば全熱が10kWでそのうち潜熱が1kWであれば
顕熱 = 全熱 – 潜熱 = 10kW – 1kW = 9kW
顕熱比 = 顕熱 ÷ 全熱 = 9kW ÷ 10kW =90%
となる。
なおここでの全熱とは室内冷房負荷を示す。
この顕熱比を空気線図上で確認すると以下の通りとなる。
③空調機吹出し温度の設定
前項で設定した室内温湿度とSHFを用いて空調機の吹出し温度を設定する。
なお計算を行うにあたり建築設備設計基準より空調機の吹出し相対湿度は90%を上限とする。
例えば以下の場合における空調機吹出し温度を確認する。
(例1)室内温湿度26℃50%、SHF=0.9
①室内温湿度26℃50%の交点に点を描く。
②次にSHFより得られた直線を室内温湿度を起点として描く
③SHFより得られた直線と相対湿度90%の交点に点を描く。
④SHFより得られた直線と相対湿度90%の交点から空気線図下側に線を描き降ろす。
⑤空調機吹出し温度は15.6℃であることがわかる。
もう一例紹介する。
(例2)室内温湿度28℃45%、SHF=0.8
①室内温湿度28℃45%の交点に点を描く。
②次にSHFより得られた直線を室内温湿度を起点として描く
③SHFより得られた直線と相対湿度90%の交点に点を描く。
④SHFより得られた直線と相対湿度90%の交点から空気線図下側に線を描き降ろす。
⑤空調機吹出し温度は14.2℃であることがわかる。
(余談)空調機の送風量
暖房時における空調機の吹出し温度を設定するためには冷房時における空調機の送風量を決定する必要がある。
そのため少し本稿の内容から脱線するが付き合っていただければと思う。
空調機の送風量は空調機の吹出温湿度と室内温湿度のエンタルピー差に基づき計算を行う。
項目 | 計算式 |
空調機の送風量[CMH] | 全熱[kW] x 単位変換(3,600) ÷ ( 空気密度(1.2) x エンタルピー差[kJ/kg]) |
以下に例を紹介する。
(例1) 全熱10kW, 室内温湿度26℃50%, 空調機吹出温湿度15.6℃90%
室内エンタルピー:52.9kJ/kg
空調機吹出しエンタルピー:40.9kJ/kg
項目 | 計算式 |
空調機の送風量[CMH] | 全熱[kW] x 単位変換(3,600) ÷ ( 空気密度(1.2) x エンタルピー差[kJ/kg]) |
10 x3,600 ÷ (1.2 x (52.9 – 40.9)) | |
2,500 CMH |
(例2) 全熱10kW, 室内温湿度28℃45%, 空調機吹出温湿度14.2℃90%
室内エンタルピー:52.9kJ/kg
空調機吹出しエンタルピー:37.2kJ/kg
項目 | 計算式 |
空調機の送風量[CMH] | 全熱[kW] x 単位変換(3,600) ÷ ( 空気密度(1.2) x エンタルピー差[kJ/kg]) |
10 x3,600 ÷ (1.2 x (52.9 – 37.2)) | |
1,910 CMH |
空調機の吹出し温度(暖房時)
次に暖房時における空調機の吹き出し温度を紹介する。
暖房時の空調機吹出し温度は主に以下の3つのプロセスで決定される。
①室内温湿度の設定
項目 | 室内温度[℃] | 室内湿度[%] |
通常 | 22℃ | 40% |
ウォームビズ | 19℃ | 40% |
まずは目標とする室内温湿度を設定する。
例えば建築設備設計基準では左表の設定温度が記載されている。
②空調機送風量の設定
次に空調機の送風量を設定する。
空調機からの送風量は通常冷房時に設定した送風量を用いる。
そのため暖房用だけのために空調機の送風量を特段決める必要がない。
(参考)暖房しか行わない空調機の場合
循環換気回数等を指標に空調機送風量を決定すればよいだろう。
③空調機吹出し温度の設定
空調機の吹出し温度は室内温度と空調機の送風量に基づき計算で求める。
計算式は以下の通りだ。
項目 | 計算式 |
空調機の吹出し温度[℃] | 室内温度[℃] + (全熱[kW] x 単位変換(3,600) ÷ ( 空気密度(1.2) x 送風量[CMH])) |
なおここでの全熱とは室内暖房負荷を示す。
以下に例を紹介する。
(例1) 全熱10kW, 室内温湿度22℃40%, 空調機送風量2,500CMH
項目 | 計算式 |
空調機の吹出し温度[℃] | 室内温度[℃] + (全熱[kW] x 単位変換(3,600) ÷ ( 空気密度(1.2) x 送風量[CMH])) |
22 + (10 x3,600 ÷ (1.2 x 2,500)) | |
34 ℃ |
(例2) 全熱10kW, 室内温湿度19℃40%, 空調機送風量1,910CMH
項目 | 計算式 |
空調機の吹出し温度[℃] | 室内温度[℃] + (全熱[kW] x 単位変換(3,600) ÷ ( 空気密度(1.2) x 送風量[CMH])) |
19 + (10 x3,600 ÷ (1.2 x 1,910)) | |
34.7 ℃ |
まとめ
今回は空調機(AHU)の吹出し温度の考え方について紹介した。
本稿が皆様の設計のお手伝いになれば幸いだ。
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