【設備設計者必携の知識】ZEBとカーボンニュートラルの違い

こんにちは。

建物のZEB化を目指す際に、よくカーボンニュートラルといった用語も同時に使用されることがある。
また、ZEBが流行った当時は、カーボンニュートラルという言葉自体がそこまでメジャーではなかったが、現在では、世間一般的にカーボンニュートラルのほうが聞くことが多いと感じる方もいるはずである。

結論、ZEBとカーボンニュートラルの意味はほとんど変わらない。
しかし、使用される場面等によって、ZEBとカーボンニュートラルのどちらが使われるかといった傾向はある。

今回はZEBとカーボンニュートラルのそれぞれの特徴と違いを紹介する。

ZEBとは

出典:環境省_ZEBポータル

ZEBとは従来、建物で使用するエネルギーを減らし、さらに太陽光発電などの再エネにより、建物で発生するエネルギー量を正味ゼロにするといった意味である。

どのような建物であっても、空調や照明といったエネルギーを利用している。
例えば空調の高効率化や照明のLED化等によって、省エネを図る。
省エネを図ることにより、建物で使用するエネルギー量が低減する。
しかし、空調や照明を使用する限り、省エネだけではエネルギー量を0にすることは不可能である。

そのため、エネルギーを全て建物敷地内で作って、消費しているエネルギー量の全て賄うことができればZEBを達成することができる。

ここまでの説明より、外部からの電力供給、ガス供給等のインフラを一切頼らずに建物を運用することでZEBを達成することができる方が多いだろう。

しかし、実際にはインフラに一切頼らずにZEBを達成することができる。
ZEBの定義は「エネルギー消費量が正味ゼロ」である点が関係する。

つまり、計算上、正味ゼロとなればよいのではあって、実際の運用においては必ずしも全てを再エネ源に頼る必要はない。

ZEBにおいては、太陽光発電で発電した分そのものが再エネの量として計上される。
つまり、太陽光発電によって実際に消費したかは関係ないこととなる。

どのような建物においても、夜間においても、ある程度の電力を消費している。
業務を維持するためのサーバーの電力供給や、守衛室の運用によるエネルギー消費等が夜間で発生する。
一方で一般に再エネを行う際には太陽光発電が用いられることが多いが、夜間は発電しない。
夜間に太陽光発電の恩恵を受けるには昼間に蓄電で電気を貯めるほかない。

しかし、夜間のすべての電力を蓄電により賄うためには、大容量の蓄電池を導入する必要があり、費用対効果の面から現実的ではない。
(今後、蓄電池の単価が下がれば導入も考えられるかも知れないが)
つまり、ZEBの定義である「正味ゼロ」においては、太陽光発電により発電した量をベースに計算を行うため、夜間のエネルギー量等を考慮する必要がない。

ZEBという用語が使用されるケース

ZEBは「エネルギー消費量が正味ゼロ」という定義から、計算上における評価をされることが多いことから、主に新築・改修建物の設計時に用いられることが多い。

ZEBはその程度に応じて、「ZEB」「NearlyZEB」「ZEBReady」「ZEBOriented」に大別される。

特徴的なことが、例えば、省エネ施策を一切行わずに太陽光発電だけでZEBを達成することは不可能であるといったことである。
ZEBでは、省エネによるエネルギー量の低減を大前提としているため、もともと想定されている建物のエネルギー量の50%以上は省エネによる低減を行う必要がある。

出典:平成30年度ZEBロードマップフォローアップ委員会とりまとめ
項目エネルギー消費量省エネの割合再エネによる効果
ZEB100%以上削減削減量50%以上含むことが可能
NearlyZEB75%以上削減削減量50%以上含むことが可能
ZEBReady50%以上削減削減量50%以上含むことが不可能
ZEB40%以上削減削減量40%以上含むことが不可能

ZEBを計算するにあたっての基準値

一般的にZEBであるかどうかを評価する際には「WEBPRO」と呼ばれる、国立研究開発法人建築研究所(協力:国土交通省国土技術政策総合研究所)が作成しているエネルギー消費性能計算プログラムが使用される。
「WEBPRO」では各室の室用途や広さ、方位、構造体等の各種条件を1部屋ずつ入力し、建物内で一般的に使用されるエネルギー量を積み上げる。
積み上げられた値が「基準値」となり、その「基準値」を基に、実際の計画がどの程度のエネルギー量を使用するかが試算される。

なお、建物を施工する前に省エネ法に適合する必要がある。
その現行の省エネ法では、省エネ計算を行うことが義務付けられており、「基準値」以下となる計画を行うことが必須となる。
(「基準値」を超えると省エネ法の違反することとなり、建物を施工できない)

カーボンニュートラル

カーボンニュートラルとは

建物では空調や照明など様々な設備でエネルギーが消費されている。
(エネルギー種別の単位を統一するため、エネルギー消費量をCO2排出量と言い換えている。)
カーボンニュートラルとは省エネや再エネ、カーボンオフセットにより、現在建物から排出されているCO2排出量を0にすることを示す。

出典:環境省_脱炭素ポータル

カーボンニュートラルで使用されるCO2排出量は実績値

ZEBと大きく異なる点の一つであるが、カーボンニュートラルを目指すためにあたって通常使用されるCO2排出量は、実績値をベースに語られることが多い。
一般にZEBは予測値が用いられる。
(ZEBを評価する段階ではまだ建物がないため)

再エネについても実績値

ZEBでは再エネは発電量に対して評価を行う事となるが、カーボンニュートラルにおいては、CO2排出量という実績値に常に跳ね返る。
つまり、カーボンニュートラルで使用される再エネの量についても実際に建物で消費された量で評価される。

売電するとどうなるか

出典:【図解】FIT(固定価格買取制度)とは? 太陽光発電の売電の仕組みを解説

余剰電力をFITを始めとした制度による売電を行って、カーボンニュートラルとする際の発電設備の効果を向上させようと考えることも可能である。
しかし、電力会社への買い取りをお願いする場合は、CO2の価値についても同様に電力会社へ譲渡することとなる。

つまり、左図に記載のとおり、売電した分に伴うCO2の価値は電力会社がCO2排出量を計算する際に計上する数値となる。

再エネが進むことで供給される電力のCO2が低減される

「電力会社がCO2排出量を計算する際に計上する数値」について紹介する。
発電所等によって電力は生成される。
火力発電所の場合であれば、化石燃料(石炭、石油、天然ガス)を燃やして、電力が作られる。
化石燃料を燃やす際にCO2が発生する。

太陽光発電による発電が一切なく、火力発電による発電が100のときのCO2排出量が100だと仮定する。
太陽光発電による発電が50となれば、火力発電による発電も50ですみ、その際のCO2排出量も50となる。
つまり、同じ電力を供給するにあたって、クリーンなエネルギーの発電割合が増えるほど、CO2排出量が小さくなる。

電力のCO2排出量が下がると、建物のCO2排出量も下がる

電力のCO2排出量(CO2排出係数という)が下がると、結果として建物のCO2排出量が下がる。

建物の消費電力量に電力のCO2排出係数を乗じて建物の電力のCO2排出量を算出する。
つまり、CO2排出係数が小さくなるほど、自然と建物のCO2排出量も小さくなる。

カーボン・オフセット

建物の敷地面積によっては、敷地内に発電設備を十分に設置できず、カーボンニュートラルの達成が難しい場合がある。
そんなときには、CO2削減量が十分に余っている他の事業者より買い取ることが可能である。(カーボンクレジットという)

森林などの吸収源も活用が可能

敷地内に森林があれば二酸化炭素の吸収源としてCO2排出量を低減することができる。
これも、ZEBにはない制度である事が挙げられる。

ZEBとカーボンニュートラルの枠組みのイメージ

前項まででZEBとカーボンニュートラルについて、説明を行った。
それぞれの特徴を比較すると、大きな差がない。
しかし、「評価段階」や「吸収源」「カーボンクレジット」「再エネの範囲」等細かな部分が異なることが挙げられる。

まとめ

今回はZEBとカーボンニュートラルのそれぞれの特徴と違いを紹介した。
設計者の場合は、施主に説明する機会が一定な頻度である。
そのため、ZEBとカーボンニュートラルの違いについてある程度正しく把握しておくべきであろう。

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