密閉式膨張タンク -役割や計算方法を紹介-

こんにちは。

中央熱源とする場合に密閉式膨張タンクを必ずと言っていいほど設ける。
だが密閉式膨張タンクの必要性についていまいち理解できていない方も多いのではないだろうか。

今回は密閉式膨張タンクの必要性や計算方法を紹介する。

膨張タンクは中央熱源方式が採用される場合に設けられることが多い。
中央熱源方式の場合は熱源機と空調機やファンコイルユニット間で密閉式の配管システムを組む。
熱源機で配管内の水を冷やしたり暖めたりする。
また空調機やファンコイルで配管から供給される冷温水の熱を消費する。
つまり冷温水の温度が変動する。
配管内の冷温水は温度により膨張や収縮が発生する。
つまり膨張タンクがないと配管内の圧力が変動し最悪の場合配管が破裂する。
膨張タンクにより冷温水の温度による膨張や収縮を吸収している。

開放式膨張タンクと密閉式膨張タンク

膨張タンクには開放式膨張タンクと密閉式膨張タンクがある。
開放式膨張タンクは外気へ開放されている膨張タンクである。
開放式が故に設置される配管の最頂部に設置する必要がある。

現在では密閉式膨張タンクが使用されることが多い。
開放式膨張タンクのデメリットは以下だ。

開放式膨張タンクのデメリット
設置位置の制約 配管系統の最頂部に設置する必要有
凍結の恐れ有 設置位置の制約により屋上に設置することが多い
配管腐食 水が空気と常に触れる環境となるため配管内に腐食が発生しやすい
補給水が必要 1度水がオーバーフローすると水温が低下した際に水の補給が必要

中央熱源の場合における冷温水の温度

左図に中央熱源の際の冷温水の温度について一例を紹介する。
冷房運転時は熱源機で7℃の冷水を精製する。
冷水は空調機やファンコイルへ供給される。
空調機やファンコイルで室内の空気を冷やすために冷水が用いられる。
室内の空気を冷やす過程で冷水の温度が7℃から14℃へ上昇する。
暖房運転時は熱源機で55℃の温水を精製する。
温水は空調機やファンコイルへ供給される。
空調機やファンコイルで室内の空気を暖めるため温水が用いられる。
室内の空気を暖める過程で温水の温度が55℃から48℃へ低下する。

つまり同じ配管内で7℃から55℃までの温度変化(⊿48℃)が発生することになる。

水温毎の比体積

下表に水温毎の比体積を紹介する。

水温[℃] 比体積[L/kg]
0℃ 1.0001
5℃ 1.0000
10℃ 1.0003
15℃ 1.0009
20℃ 1.0017
25℃ 1.0029
30℃ 1.0043
35℃ 1.0058
40℃ 1.0077
45℃ 1.0098
50℃ 1.0120
水温[℃] 比体積[L/kg]
55℃ 1.0143
60℃ 1.0169
65℃ 1.0196
70℃ 1.0226
75℃ 1.0257
80℃ 1.0289
85℃ 1.0322
90℃ 1.0357
95℃ 1.0393
100℃ 1.0431

つまり冷温水の温度差が48℃(55℃-7℃)である場合における膨張割合は
1.0143 ÷ 1.0000 = 1.0143倍 となる。

密閉式膨張タンクの計算方法

本章では密閉式膨張タンクの計算方法を紹介する。

膨張タンクの膨張量

膨張タンクの膨張量[L]
計算式⊿V = ( v2 – v1) x V x K

但し
v2 = 最高使用温度時の比体積[L/kg]
v1 = 最低使用温度時の比体積[L/kg]
V   = 熱源システム内全水量[L]
K   = 余裕係数(1.5~2.5)

例えば各変数が以下の数値の場合を求める。
v2 = 1.0143(55℃)
v1 = 1.0000(5℃)
V   = 配管内水量(1,568L) + 機器内水量(3,900L) = 5,468L
K   = 2.0

膨張タンクの膨張量[L]計算例
計算式⊿V = ( 1.0143 – 1.0000 ) x 5,468L x 2.0 =156.4L  

熱源システム内全容量を求める

熱源システム内全容量は大きく配管内の水量と機器内の水量に大別することが可能だ。

熱源システム内全容量[L]
計算式V = 配管内の水量[L] + 機器内の水量[L] 
配管内の水量

配管内の水量を求めるためには配管径別に配管長さを整理する必要がある。
配管長さを整理したのちに配管径毎の水量を乗じて配管内の水量を算出する

配管径毎の水量[L/m]
15A 0.20
20A 0.37
25A 0.60
32A 1.00
40A 1.36
50A 2.20
65A 3.62
配管径毎の水量[L/m]
80A 5.12
100A 8.71
125A 13.44
150A 18.92
200A 32.91
250A 50.75
300A 72.92
配管の水量[L]計算例
配管径配管長配管毎の水量配管内水量
20A100m0.37 L/m37 L
50A300m2.20 L/m660 L
100A100m8.71 L/m871 L
合計1,568 L
機器内の水量

熱源機や空調機、ファンコイルユニット等内に保有される水量も併せて整理する必要がある。
これらは機器のカタログや仕様書に機器の保有水量が記載されていることが多い。

機器内の水量[L]計算例
機器名数量単位水量配管内水量
熱源機2台650L1,300L
ヘッダー4台500L2,000L
空調機8台50L400L
ファンコイルユニット100台2L200L
合計3,900L

密閉式膨張タンクの最低使用圧力

密閉式膨張タンクの最低使用圧力[kPa]
計算式P1 = a + b + c

但し
a = 膨張タンクに加えられる補給水圧力[kPa]
b = 循環ポンプにより膨張タンクに加えられる圧力[kPa]
c = 大気圧力(101.3)[kPa]

以下に計算例を示す。
a = 310kPa
b = 0kPa
c = 101.3kPa とすると

密閉式膨張タンクの最低使用圧力[kPa]計算例
計算式P1 = 310 + 0 + 101.3 = 411.3kPa

膨張タンクに加えられる補給水圧力

膨張タンクに加えられる補給水圧力aは以下の式で求められる。
a = a’ + a”
a’  = 膨張タンクから補給水(水)までの高低差
a” = 補給水接続における補給水の供給圧力

密閉式膨張タンクと補給水の接続位置は通常同一階に設置される。
そのため
・配管高低差a’は1m(10kPa)程度
・補給水圧力a”はポンプ圧送の場合はポンプの揚程、直結の場合は200~300kPa程度見込んでおけば十分だろう。

循環ポンプにより膨張タンクに加えられる圧力

膨張タンクを循環ポンプの吸込み側に設ける場合は0とすることがほとんどだ。
つまりリターンヘッダー側に膨張タンクを設ける場合は圧力は循環ポンプにより膨張タンクに加えられる圧力は0となる。
考えづらいケースではあるがサプライヘッダー側へ膨張タンクを設ける場合は循環ポンプの揚程分だけ膨張タンクに圧力が加わる。

密閉式膨張タンクの最高使用圧力

密閉式膨張タンクの最高使用圧力[kPa]
計算式P2 = d – ( e + f+ g ) + P1

但し
d = 逃がし弁圧力(5Kであれば500)[kPa]
e = 逃がし弁に対する余裕率 ( d x 0.1 ) [kPa]
f = 逃がし弁に加えられる圧力(補給水の圧力 = a”)[kPa]
g = 循環ポンプにより逃し弁に加えられる圧力( =0)[kPa]
P1 = 密閉式膨張タンクの最低使用圧力[kPa]

以下に計算例を示す。
d = 500kPa
e = 500 x 0.1 = 50kPa
f = 300kPa
g =0 kPa
P1 = 411.3kPa            とすると

密閉式膨張タンクの最高使用圧力[kPa]計算例
計算式P2 = 500 – ( 50 + 300 + 0 ) + 411.3 = 561.3kPa

密閉式膨張タンクの容量

密閉式膨張タンクの容量[L]
計算式VT = ⊿V ÷ ( 1- ( P1 ÷ P2 ))

但し
⊿V = 膨張量[L]
P1 = 最低使用圧力[kPa]
P2 = 最高使用圧力[kPa]以下に計算例を示す。

⊿V = 156.4L
P1  = 411.3kPa
P2  = 561.1kPa            とすると

密閉式膨張タンクの容量[L]計算例
計算式VT = 156.4 ÷ ( 1- ( 411.3 ÷ 561.1 )) = 586L

例題

一通り紹介したところで2例計算例を紹介する。

計算例①

以下の条件で計算を行った。

計算例①計算条件
配管内保有水量 1,448L
機器保有水量 3,900L
使用温度 7℃~60℃

計算例②

以下の条件で計算を行った。

計算例②計算条件
配管内保有水量2,576L
機器保有水量1,750L
使用温度7℃~14℃

まとめ

今回は密閉式膨張タンクの必要性や計算方法を紹介した。
密閉式膨張タンクの計算方法は非常に複雑だ。
だが一つずつ理解することで次第に理解ができるようになるはずだ。

また例題で紹介した膨張タンクの計算書についてエクセルのフォーマットをこちらで公開している。
興味がある方はご確認頂ければと思う。

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