海外の設計外気温湿度条件 -ASHRAEを用いよう-

こんにちは。

海外案件を設計する際は、日本の基準とは大きく異なる。
そのため、設計を進めるにあたって戸惑うことも少なくない。
特に、日本での常識が現地では常識ではないことも多い。
そのため、現地でしっかりとヒアリングを行ったうえで設計を進める必要がある。
その中でも、現地の方も把握していない内容の一つが設計用外気温湿度だろう。

日本のように気象庁が時刻別の外気温湿度データ(csv)を公開していれば、データの取得はそこまで難しくないだろう。
しかし、日本のようにデータを公開していたとしても、そのページまでたどり着くことができないことも少なくない。
そんなときには、信頼のある機関が公開しているデータを参照することが重要となる。
例えば、世界的に信用性が高いとされるアメリカ暖房冷凍空調学会(American Society of Heating, Refrigerating and Air-Conditioning Engineers)(通称ASHRAE)が公開しているデータを用いることが考えられる。

今回はASHRAEが公開している外気温湿度情報について紹介する。

ASHRAEの概要

ASHRAEとは

ASHRAEとはアメリカ暖房冷凍空調学会(American Society of Heating, Refrigerating and Air-Conditioning Engineers)の略であり、暖房・換気・空調・冷凍分野におけえる国際的な学会である。
ASHRAEでは数多くの技術委員会を抱え、アメリカ規格協会(ANSI)の認証を受けた各種基準やガイドラインを制定している。
なお、アメリカ規格協会(ANSI)とは日本でいう日本産業規格(Japanese Industrial Standards)(通称JIS)と似たような位置づけである。
ASHRAEでは世界各地の設計用外気温湿度についても公開しており、世界中の設計者がこれらの数値を用いている。

ASHRAEが日本では普及しない理由

日本では既に建築基準法やその他各種法令、設備でいえば建築設備設計基準等のガイドラインが既に制定されている。
そのため、ASHRAEを用いることで各種基準に矛盾が生じる可能性があることが挙げられる。
また、日本で制定された各種基準は日本に特化した基準である一方で、ASHRAEは世界標準としての基準であるため、ASHRAEの基準が日本に即していない可能性もあるためである。

参考

ASHRAEではいわゆる建築設備設計基準に記載のあるような内容についてもひと通り掲載されている。
例えば、熱負荷計算についても言及がある。
しかし、ASHRAEが公式に熱負荷計算ソフトを制作しておらず、アメリカで言えばEnergy PlusやCarrier HVAC calculationsなどさまざまな事業者が熱負荷計算ソフトを制作している。
(日本の場合はAPAC(以前でいうIPAC)が主流)
他にも人員密度の設定方法や1人あたりの給水量の設定値が日本でいう建築設備設計基準とは大きく異なる。

なお、日本の各種基準もASHRAEの基準を完全に無視しているわけではない。
空気調和衛生工学便覧では要所に出典元がASHRAEである旨が記載されている。
日本では多くの場合空気調和衛生工学便覧をベースに各種基準が制定されていることも少なくない。
そのため、結果としてASHRAEの基準を適宜日本基準に取り入れているともいえよう。

ASHRAE

Webサイトと参照可能な地点

ASHRAEの設計用外気温湿度は以下で紹介されている。

https://ashrae-meteo.info/v2.0/

2025年8月時点では2021年時点の設計用外気温湿度を参照することが可能である。
例えば、東京近辺で調べると東京付近の地点が複数検索される。

他にも例えば、アフリカなどの発展途上国においても以下のとおり検索することが可能である。

参照可能な情報

例えば東京においては各種情報が以下のとおり表示される。
具体的には設計外気温湿度に関する情報や、風速、降水量、日射量等の情報を取得することが可能である。

例えば、東京における夏期外気温度条件は33.7℃、外気湿球温度は25.6℃となる。
なお、冷却コイル選定時においては外気温度が31.3℃、比エンタルピーが83.5kJ/kgとなる。
また、冬期外気温度条件は0.7℃であり、絶対湿度は1.0g/kgとなる。
(危険率0.4%の値)

ASHRAEと建築設備設計基準で大きく異なる点が、ASHRAEでは夏期外気温湿度条件と冷却コイル選定時の温湿度条件の2種類があることに対し、建築設備設計基準ではどちらも同一の値を用いる点だろう。

また、ASHRAEでは危険率0.4%、1%、2%(冷房のみ)が紹介されているが、どの危険率を採用するかは設計者の考え方による。(建築設備設計基準では危険率2.5%)

 

ASHRAEではその他にも様々な情報が紹介されているため、ぜひ一読いただければと思う。

ASHRAEと建築設備設計基準の比較

日本主要都市6地点(札幌、仙台、東京、大阪、福岡、那覇)についてASHRAEと建築設備設計基準の値を比較することとする。
ASHRAEが2021年度の基準が2025年8月時点で最新であるため、建築設備設計基準も令和3年度版を用いる。

札幌
基準 夏期 冬期
乾球温度 相対湿度 比エンタルピー 乾球温度 相対湿度 比エンタルピー
[℃] 差分[℃] [%] [kJ/kg] 差分[kJ/kg] [℃] 差分[℃] [%] [kJ/kg] 差分[kJ/kg]
建築設備設計基準 30.7 59.2 73.2 -8.1 66.1 -5.0
ASHRAE 危険率0.4% 29.5 -1.2 63.2 71.7 -1.5 -9.9 -1.8 45.0 -8.0 -3.0
危険率1.0% 27.9 -2.8 66.8 68.4 -4.8 -8.6 -0.5 43.0 -6.6 -1.6
危険率2.0% 26.5 -4.2 69.4 65.2 -8.0
仙台
基準 夏期 冬期
乾球温度 相対湿度 比エンタルピー 乾球温度 相対湿度 比エンタルピー
[℃] 差分[℃] [%] [kJ/kg] 差分[kJ/kg] [℃] 差分[℃] [%] [kJ/kg] 差分[kJ/kg]
建築設備設計基準 32.9 59.0 81.2 -2.0 68.8 3.5
ASHRAE 危険率0.4% 31.7 -1.2 61.8 78.7 -2.5 -3.6 -1.6 52.0 0.1 -3.4
危険率1.0% 30.2 -2.7 66.4 76.4 -4.8 -2.6 -0.6 55.0 1.7 -1.8
危険率2.0% 28.8 -4.1 70.6 74.1 -7.1
東京
基準 夏期 冬期
乾球温度 相対湿度 比エンタルピー 乾球温度 相対湿度 比エンタルピー
[℃] 差分[℃] [%] [kJ/kg] 差分[kJ/kg] [℃] 差分[℃] [%] [kJ/kg] 差分[kJ/kg]
建築設備設計基準 34.8 58.0 87.8 1.7 41.7 6.2
ASHRAE 危険率0.4% 33.7 -1.1 58.4 83.5 -4.3 0.7 -1.0 25.0 3.2 -3.0
危険率1.0% 32.6 -2.2 60.3 80.9 -6.9 1.5 -0.2 28.0 4.4 -1.8
危険率2.0% 31.5 -3.3 62.8 78.7 -9.1
大阪
基準 夏期 冬期
乾球温度 相対湿度 比エンタルピー 乾球温度 相対湿度 比エンタルピー
[℃] 差分[℃] [%] [kJ/kg] 差分[kJ/kg] [℃] 差分[℃] [%] [kJ/kg] 差分[kJ/kg]
建築設備設計基準 34.9 53.1 83.5 1.8 58.7 8.1
ASHRAE 危険率0.4% 34.5 -0.4 53.1 81.8 -1.7 0.7 -1.1 45.0 5.2 -2.9
危険率1.0% 33.6 -1.3 54.9 80.1 -3.4 1.5 -0.3 49.0 6.7 -1.4
危険率2.0% 32.5 -2.4 57.7 78.4 -5.1
福岡
基準 夏期 冬期
乾球温度 相対湿度 比エンタルピー 乾球温度 相対湿度 比エンタルピー
[℃] 差分[℃] [%] [kJ/kg] 差分[kJ/kg] [℃] 差分[℃] [%] [kJ/kg] 差分[kJ/kg]
建築設備設計基準 35.1 57.3 88.3 1.6 58.4 7.8
ASHRAE 危険率0.4% 33.9 -1.2 59.4 85.2 -3.1 1.0 -0.6 45.0 5.6 -2.2
危険率1.0% 33.0 -2.1 60.4 82.5 -5.8 2.0 +0.4 45.0 6.9 -0.9
危険率2.0% 32.0 -3.1 62.4 80.3 -8.0
那覇
基準 夏期 冬期
乾球温度 相対湿度 比エンタルピー 乾球温度 相対湿度 比エンタルピー
[℃] 差分[℃] [%] [kJ/kg] 差分[kJ/kg] [℃] 差分[℃] [%] [kJ/kg] 差分[kJ/kg]
建築設備設計基準 32.9 68.4 89.1 13.1 54.2 26.0
ASHRAE 危険率0.4% 32.3 -0.6 70.2 87.8 -1.3 12.0 -1.1 52.0 23.5 -2.5
危険率1.0% 31.8 -1.1 71.2 86.4 -2.7 12.9 -0.2 53.0 25.3 -0.7
危険率2.0% 31.3 -1.6 72.2 85.1 -4.0

まとめ

今回はASHRAEが公開している外気温湿度情報について紹介した。

ASHRAEと建築設備設計基準に記載されている設計用外気温湿度を比較した結果、夏期設計外気温湿度は全体的に甘いものの、概ね近似する結果となった。
必要に応じてASHRAEの数値を用いることで設計の根拠として用いることが可能であろう。

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